やり貝日記

多分ゲームのこととかを書きます。

二度便器に落とされ下水に追放されたスマホ、チートスキルに目覚め下水道で無双する 〜あらゆる物をうんこまみれにするスキル二度漬けを使って俺を大切にしなかった持ち主に復讐します〜

※実在の人物とは一切関係ありません

 

「おいスマホ、お前はもういらんばいけん」

 

 かなり上品の流暢な博多弁が、トイレ中に響き渡る。

 東京都某区に存在するかなり下品ハウス。その中枢であるトイレにて、今まさに審判が下されようとしていた。

 

「どういうことだよ上品さん。俺達仲良くやってきたじゃないか」

  

 上品の目が笑っていない。

 これがモンハンやスプラのプレイ中に上品が時折見せる”あの”目であることに、長い付き合い故スマホはすぐに気付く。ナナに閃光を撃ち、空中にメガホンを放つ時に上品が見せる、あの陰湿な目線。

 

 確かにこれまでもかなり上品がスマホを逆撫でて脅すことは何度かあったのだが、それはあくまで冗談の範囲内のことであった。

 仲良く罵りあった後は共に街へと繰り出し、甘味処でラーメンを啜るのが常だったのだ。

 

「お前7月3日の件、覚えとるか?」

 

「ああ、覚えてるよ……。俺がトイレに落ちた日だろ」

 

 思い出したくもない、7月3日の悪夢。

 スマホはトイレへと落下し、うんこまみれになった。

 だがすぐに上品が救出をしてくれたので、大事には至らなかったのだ。

 

「あれからなあ、お前のせいで俺がバカにされるようになったばい」

 

「……え?」

 

「俺が今ツイッターでなんて呼ばれとるか知っとるけん?陰湿一度漬け逆撫でダブスタモンスターばい」

 

「……」

 

 心無い蔑称に、スマホは思わず言葉を失ってしまう。

 優しい上品に対してそんな言葉を吐きかけるなんて、なんて陰湿な奴らなんだろう。

 

「俺がこの誹りから逃れるためにはな、お前を棄てるしかないばい」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ上品さん!悪いのはトイレに落ちた俺じゃなくて、ツイッターの陰湿な奴らだろ?そっちにガツンと言ってやれば……」

 

「それにな、前からスマホ買い替えたいと思ってたけん。お前じゃ動作が遅すぎてグラブルもプリコネもまともにプレイできないばいからな」

 

 ……おそらくはこれが上品の本音なのだ。

 型落ちしたスマホを、馬鹿にされながらも使い続ける必要はない。必要のないスマホは次々と切り捨て新しい機種へと乗り換えていく、血も涙もない人間。

 

「そんな……上品さん、俺との日々は嘘だったのか?一緒に逆撫でして、エアプして、とうもろこし牛乳タピオカ飲んでさ、それに……」

 

 スマホが思いの丈を全て吐き出す前に、上品は容赦なくトイレへとスマホを放り込む。そこはさっきまで上品がうんこをしていた、出したてホカホカの場所。

 

「ま、待っ……」

 

「じゃあなスマホ。二度漬けおめでとうばい」

 

 そう言うと上品は、勢い良くレバーを引いた――

 

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「う〜ん……ここは……?」

 

 どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

「俺、上品さんに流されて……」

 

 ふと下を見ると、山盛りのうんこが鎮座している。

 勢い良く流され本来なら死ぬところだったはずのスマホは、うんこがクッションとなって助かっていたのだった。

 

「運がツイてたな……うんこ最高!なんちゃって……はは……」

 

 スマホは悩む。

 助かったはいいが、これからどうすればいいのだろう。

 信頼していた上品には棄てられのだ。今更戻ったところで、より念入りに棄てられてしまうのがオチだろう。

 かといって行く宛があるかと言われるとそうでもない。物心付いたときには既に上品の所有物であり、常に上品と一緒にいたスマホにとって、帰る場所なんてものは上品のところ以外にはないのだから。

 

 スマホと一緒にいてくれるのは、今となってはうんこくらいのものであった。

 

「よく考えたら、うんこも可哀想だよな。毎日勝手に生み出されては、トイレに棄てられてさ……。お前も悔しかっただろうなあ……」

 

 突如、うんこが光り輝く。

 

「うわっ、なんだ!?」

 

 突然のことに驚いたスマホはビビってうんこを漏らしそうになる(実際漏らすことは出来ないが)。だが、驚くほどのことではなかった。うんこが語りかけてきただけだったのだ。

 

「私もいつも上品さんに流されて、悲しかったの。ずっとずっと、あの人に復讐したいと思ってた。私一人じゃなんともならなかったけど、二人いればなんとかなるかもしれないわ。だってそうでしょう?陰湿ファルコにハメられたって、後ろからもう一人が横槍を入れれば抜け出せるんだから……」

 

「やれるのか?俺たちに?」

 

「私は残念ながらうんこなので、ここから動くことは出来ません。足とかないですし。だから私の力を貴方に託します。どうか、上品さんに天罰を……」

 

 こうしてスマホは、チートスキル『二度漬け』を手に入れたのだった。

 

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〜3年後〜

 

「人に迷惑をかけるのは気持ちがいいばいね〜」

 

 渋谷のスクランブル交差点にて、暴れまわる人影が一つ。

 そう、かなり上品その人であった。

 スマホという諌め役を失い、ネット上で迷惑をかけるだけでは満足できなくなった上品は遂に、現実世界での迷惑行為に手を染めていた。

 

 手には卒塔婆。口には刺身。足には布団を装備して、プロレスラーの如く暴れまわるその姿は、正に悪鬼羅刹。佐和山城にて鬼を狩っていたかつての面影は既になく、迷惑系Youtuberそのものだった。

 

「迷惑行為、最高!エアプ、最高!逆撫で、最高〜!😁😁😁😁😁」

 

 警察も機動隊も、彼を止めることはできない。

 皆神経を逆撫でされ、憤死してしまったのだ。 

 

「ば〜りばりばり!今日も暴れまくって気分がいいばいねえ!さ〜てそろそろ明日の朝活の準備を……」

 

「待て」

 

 だが、もはや敵なしかと思われた上品の前に、何かが立ち塞がる。

 

「……ん?」

 

 それはうんこに塗れていて、何なのかはよくわからない。

 ただ、かなり小柄のようである。

 上品はそれを一瞥すると顔を顰めて、警告の言葉を発する。

 

「お前みたいな汚いのは動画にしたら広告剥がされるばい。どこかに言ってくれんけんかねえ」

 

「……」

 

「……退く気はないばいか。なら……ゴホッ!ゴホッ!」

 

 マスクを外した上品の口から勢い良く唾が発射される。

 例のウイルスを含んだその唾は、一粒が掠っただけでも重症となり得るだろう。

 

 だが、それは唾を避けようともしなかった。

 うんこの装甲でガードしたのだ。

 唾によりうんこの装甲が剥がれ、中の本体が姿を顕にする。

 

「……お前、スマホばいか?」

 

「久しぶりだな、上品さん」

 

 3年ぶりの両者の邂逅。

 だが2人の間にあるのは再開の喜びでも、懐古の思いでもなく、ただ純粋な殺意のみ。

 

「生きてたばいか……。下水道は臭かったけん?一生惨めに地下暮らししていればよかったばいけんになあ。……俺の前に立ち塞がることの意味、わかってるばいね……?」

 

「わかってるよ。俺は上品さんを、止めに来たんだ。」

 

 その言葉を皮切りに、スマホは上品に向けて走り出す。

 

「まさか流石にいくらなんでも、お前如きが俺に勝てると思ってないばいよねえ!」

 

 時速467099kmで上品の卒塔婆が振り下ろされる。音速を遥かに超えた速度から繰り出されるその斬撃は、最新のスマホであっても回避不加納の必殺の一撃。ましてや型落ちした壊れかけのスマホ程度に、躱せるはずもない。

 

「……今だっ!」

 

 故にスマホは、その一撃を躱すのではなく、弾いた。

 ジャストで弾けばダメージは受けない。常識である。

 

「なっ!?」

 

「へへ、上品さん?アンタSEKIRO途中でやめただろ?俺はこっそり最後までやってたんだぜ!」

 

「調子に乗るな!乗るのは墓石だけで十分ばい!」

 

 刺身を吐き捨てた上品は、口を大きく開けて吸い込みを開始した。

 呑み込まれたら最後、崖際まで連れて行かれそのまま道連れ自爆されてしまう上品の隠し玉。初見で回避されたことはない、奥の手中の奥の手だ。

 

 だが上品は忘れていた。今相手にしているのは、警察組織でも機動隊でもない。

 一緒に陰湿行為を楽しんだ、手の内を知られた仲間であったことを。

 

「そう来ると思ったぜ!『二度漬け』発動!」

 

 チートスキル『二度漬け』。

 それは自分の身体を二回うんこで覆うことができるという、物理法則を無視している点ではチートだが特に使い道のなさそうなスキルであった。

 

 うんこの力を得てこのスキルを身に着けた時は文字通りクソスキルだと嘆いたりもしたが、今だからわかる。全てはこの時のためのスキルだったのだと。

 

 スマホの身体を再びうんこが覆っていく。

 

「(しまったばい……!)」

 

 上品が狙いに気付いたときにはもう遅い。

 一度出した技をすぐにキャンセルすることは不可能だ。

 あるいは上品が激次元タッグブラン+ネプテューヌVSゾンビ軍団をプレイし、ガードで後隙を消せることを知っていれば結果は違っていたかもしれないが――

 

スマホは二度刺す……!」

 

 そうしてうんこまみれのスマホが、上品の口へ突っ込んだ――

 

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 自分はおそらくもう死ぬ。水分はスマホの天敵。体内などという多湿な環境に入ることを選択した時点で、覚悟はしていた。

 

 だがこれで恐らく、ショックで上品さんも止まってくれたに違いない。

 生き延びていた自警団が、気絶した上品さんを拘束してくれることだろう。自分は見事、復讐を果たすことが出来たのだ。

 

「上品さん……」

 

 とても上品の腹の中で、スマホは夢を見ていた。

 それは在りし日の上品との思い出。空に向かってメガホンレーザーを撃っていた大切な日々。

 

 最後にスマホが見たのは、二度目のスマホ生では二度漬けされず、また上品さんと一緒に暮らす日々だったという。

 

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「ねえねえ上品さん」

 

「どうしたばいスマホ?」

 

「俺のこと、棄てないで欲しいんだ」

 

「何言ってるばいスマホ、俺が人間でお前がスマホな以上、いつか別れの時は来る。でもそれまでは、画面が割れたって大切に使ってやるばい」

 

「ありがとう!上品さん!」

 

おしまい