今回頂いたお題は、逆光・流星・王権神授です。
絶対なろう作家になるぜ。
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「というわけでですな、本日の議題は……」
とある帝国にて、非常に重大な会議が行われていた。
議題はずばり、「皇帝の肖像画をどのようにして作るか」というものである。
事の発端は数日前。
別の世界からやって来たという人物が、珍しい道具を携えて皇帝と謁見したのが全ての始まりだった。どうやらその時の珍しい道具の中に、風景をそっくりそのまま描き出してしまうようなものがあったらしい。
原因はそれだけではない。別の世界の王族たちには、肖像画と呼ばれる自画像を作らせ、それを後世に遺す文化があるという話をも聞かされてしまったのだ。
そんな話を聞かされて、虚栄心に塗れた我らが皇帝陛下が黙っていられるはずがない。すぐさま国中から画家という画家が集められ、ついでに家臣も集められ、肖像画を作ることになったのだ。
「肖像画の作成にあたって、陛下が望まれている条件は3つある。」
宰相が、面倒臭そうに話を続ける。
「第一に、写実的であること。陛下はあの怪しげな人間が持ってきたカメラとかいう道具をいたく気に入っておられた。毛の一本までも忠実に再現して描くようにとのご命令だ。」
一部の者たちが、ため息をつく。
「第二に、陛下の偉大さを世に知らしめることができるようなものであること。ただ写実的であればいいというわけではないぞ。陛下が普段から放っている王としての威光まで漂ってくるような絵に仕上げよとのご命令だ。」
その言葉を聞いて、ほとんどの者が顔をしかめた。
「そして第三に、神にも敬意を払った内容であること。知っての通り、我らが陛下の権利は神から授かったものである。故に陛下だけでなく神にも敬意を払っているような絵を作ること、と陛下はおっしゃっていた。」
全員が諦めたかのような表情で、顔を見合わせた。
しばし沈黙。
「「「いや、無理難題もいいところでしょう……」」」
普段は自らの利権や主義主張のためにいがみ合い、蹴落としあっている役人たちの意見が初めて一致した瞬間であった。
少し考えればわかることだ。そんな絵を描くのは無理に決まっている。
そもそもいきなり写実的な絵を描けと画家たちに言ってもできるわけがない。万が一できたとしても王としての威厳とやらを絵に表現できるわけがない。第一元々ないようなものをどうやって表現するというのか。億が一上手くいったとしても神に敬意を払うなんて何をすればいいのかすらわからない。詰みである。
誰もが王への言い訳を考え始めたその時のことだった。
「え~っとですね、もしかしたらなんとかなるかもしれませんよ。」
一人の学者が、恐る恐る手を挙げて発言をした。
彼は学者の中でも相当な変わり者として知られており、一部では屁理屈だけでのし上がってきた男などと呼ばれていた筋金入りの奇人であった。
「写実的、っていうのは要は現実に即して書けばいいってことでしょう?それなら陛下の御身が逆光に隠れるようにして描けばいいんですよ。そうすればほら、陛下の御身は黒く塗りつぶしてしまえばいい。それがリアルに描くということなんですから。」
「「「……」」」
会場が凍る。誰もがこんなバカみたいな答えが出てくるとは思ってもいなかったのだろう。そんな解決策が通じるなら誰だって苦労はしない。いくら我らが王が無能そのものだからと言って、そんな適当な絵を出されてしまえば自分が侮られていることくらには気づくはずだ。
周囲の落胆もどこ吹く風といったように、学者は話を続けようとする。
ここまでの話だけではどれだけ荒唐無稽と思われるのかは、流石に彼自身も把握していたようだった。
「ここまでの話だけだと、確かにまともな絵なんて完成しないと思われるかもしれません。ですけどね、ここで我が国の伝説を利用するのですよ。」
「流星の伝説は皆様もご存じでしょう。かつて偉大なる初代皇帝陛下が神託を与えられたとき、空には紅き流星が光り輝いていたと言われています。それ以来、『流星』と『紅』という概念は我が国の皇族を象徴する重大な要因となってきました。つまり、『流星』と『紅』を絵の中に取り入れてしまえばいいのです。神により王権が授けられた際のエピソードが一目で分かるような絵にすることで、神に対する尊敬の念と、その神に認められている陛下の偉大さを表すことができるでしょう。これで第二と第三の条件はクリアできます。
「そして、流星が光り輝いているので当然陛下の御身は逆光に隠れることになります。そうすれば真っ黒な訳で、毛の一本まで細かく書く必要なんて生まれませんよ。これで第一の条件も簡単にクリアできるという訳です。」
「東方の僧侶たちの間では、偉大な存在には後光、後ろから光が差すとも言われています。よく知らないのですが、きっとその人たちの姿も逆光で見え辛いはずですよ。同じようなものです。要はこんな感じの肖像画を作ればいいんです。」
学者はそう言って得意げに頷き、発言を止めた。
「「「……」」」
会場は相変わらず静まり返っていた。しかし、今度は呆れから静まり返ったのではなかった。
……非の打ち所がない。あまりの理論武装の完璧さに、全員が驚愕していたのだ。
「なるほど……」
「認めざるをえまい……」
「なんて完璧で隙のない方法なんだ……」
やがて会場のところどころから賞賛の声が上がる。この方法で皇帝を満足させることができるのは、火を見るよりも明らかだった。
「異議のある者がいなければ、これで会議を終わることとするが、どうかね?」
「「「異議なし!!!」」」
こうして、偉大なる皇帝陛下の肖像画が作られることになったのだった。
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「先生、この絵ってなんなんですか?」
「この絵はな、昔滅んだ帝国の暴虐な皇帝を描いた絵だと言われているんだ。天上には紅き凶星が降り注ぎ、周囲は民の血と怒りで真っ赤に染まってるだろ?中心の真っ黒な人物が皇帝だと言われているんだが。なぜ塗りつぶされているのかについては未だに意見が分かれていてなあ。一説にはあまりにも醜すぎて姿を残すことを嫌ったのではないかとも言われているが、本当のところはどうだったんだろうなあ……」
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・あとがき
お題が難しかった。お題を上手いこと絡めながら綺麗にまとめてみたかったのだが、展開に少し無理がある感じになってしまったのが後悔ポイント。褒め殺しをする箇所でこれからのなろう展開に向けての練習をやったつもりだったりする。
こういう短編一発ネタみたいなお話は昔のVIPにたまに立っていたSSスレみたいなのが一番馴染み深いので、どうしてもそういった方向に引っ張られがちなのだなあとか思っている。
なろうで当てることを目的としているので本当はもっとヒロインとかを出していきたいのだが、未だに恥の感情が大きすぎて上手くキャラクターを動かすことができない。何が言いたいかっていうとなろう作家は本当にすごいという話。